やんばるジャンキー

沖縄島北部・やんばるの森、その底知れぬ魅力のジャンキー(中毒者)となった筆者が、やんばるの森で見つけた生き物を記録していきます

2019年の報文まとめ

 イマドキは記録を漁る時にまずWeb検索する人が多いでしょうが、タイトルや掲載誌によっては検索に引っかかりにくいものもあると思うので、最近書いた報文の一覧をここにまとめて検索しやすいように軽く内容紹介しておこうと思います。

 
(短報) 久米島におけるオキナワカタモンヒメクチキムシの記録
藤川浩明
月刊むし2018年12月号 (574号)
 これまで模式産地である沖縄島のみで記録されていたオキナワカタモンヒメクチキムシ Mycetochara (Ernocharis) okinawaensis Akita & Masumoto, 2014 の久米島初記録です。生態面の知見などは特に無いシンプルな内容です。


(短報) オキナワキモンヒメクチキムシの追加記録および発生時期について
藤川浩明
月刊むし2019年6月号 (580号)
 原記載以後に一部虫屋が多数採集していたものの、文献上はホロタイプ1♀と「日本産ゴミムシダマシ大図鑑」(むし社)で明確なデータや図を伴わず標本の存在のみ言及された1♂しか知られていなかったオキナワキモンヒメクチキムシ Mycetochara (Ernocharis) hiranoi Akita & Masumoto, 2014 を、♂含めて多数追加記録しました。原記載や図鑑では♂が図示されていなかったため、本稿の♂背面写真が文献上は初の♂図示となります(なのに白黒写真での掲載にされてちょっぴり悲しい....)。俺の力不足により交尾器の図示は無いです.....。
 単なる追加記録だけでなく、同属のオキナワカタモンヒメクチキムシとの発生時期の違いについても触れています。ゴミダマ大図鑑では最珍ランクである☆5に格付けされていますが、発生期と好みの環境さえ分かってしまえば実際さほど珍しくはない感じです。調査不足補正だったんでしょうね(まあ珍品とされる虫の大半はそんなもんだろう)。
 

(短報) ヘリアカデオキノコムシの沖縄島からの初記録
藤川浩明・松村雅史・杉野廣一
さやばねニューシリーズ34号(2019年6月)
 本土では普通種でありながら最南端記録地である奄美産は長らく追加記録されておらず2015年まで分布が疑問視されていたヘリアカデオキノコムシ Scaphidium reitteri Lewis, 1879 の沖縄島における初記録になります。
 沖縄島産のほとんどの個体は本土産とは体の大きさや背面の模様・色彩が異なるため、俺たち沖縄虫屋は当初「デオキノコ不明種」と呼んでいましたが、福井大学の保科英人先生に標本を検視して頂いたところ、♂交尾器内袋骨片は本土産ヘリアカデオキノコムシとほとんど変わらず、この「デオキノコ不明種」がヘリアカデオキノコムシそのものであることが確定しました。また共著者の杉野廣一さんが1975年に採集した1個体は本土産とほとんど変わらない模様・色彩をしていたため、1個体のみとはいえ本土産とほぼ変わらぬ個体もいるのだから亜種として分けるにも至らないと結論されました。ちなみに保科先生によると奄美産も沖縄島産と共通の特徴を持つそうです。


(報文) 採集例の極めて少ない琉球列島産メツブテントウ類3種の記録
中野文尊・藤川浩明・青井光太郎・緒方裕大
月刊むし2019年8月号(582号)
 琉球列島産のハネナシメツブテントウ属 Nesolotis 4種はいずれも原記載以降の記録が極めて少ないのですが、そのうちの3種ナナホシメツブテントウ Nesolotis amabilis (H. Kamiya, 1965)、キイロメツブテントウ Nesolotis azumai Sasaji, 1967、クロメツブテントウ Nesolotis impunctata Miyatake, 1966 を追加記録しました。
 このうちナナホシメツブテントウとキイロメツブテントウについては生態面・形態面ともにいくらかの新知見も含む内容となっております。またキイロメツブテントウについては奈良県からの記録が誤同定であること、記載論文の内容に一部怪しい部分があることについても触れています。クロメツブテントウについては特に生態面・形態面の新知見は無いですが、おそらくこれが原記載以来半世紀ぶりの追加記録と思われます。
 俺が担当したのは中国人研究者らによる Nesolotis 再定義の訳とキイロメツブテントウのパートの骨子です。
 本稿で記録した種はいずれも体長1mm程度と非常に小さいのですが、筆頭著者である中野(微小甲虫のイカれた展足技術で名を上げつつある変態)が狂気じみた展足をしてくましたので標本写真は見応えがあり必見です!変態め.....。


(短報) 沖縄島におけるクワガタツツキノコムシの記録
藤川浩明・徳重典英
月刊むし2019年8月号(582号)
 西表島石垣島屋久島で記録されているクワガタツツキノコムシ Cis capricornis Kawanabe, 1997 の沖縄島初記録になります。生態面の知見などは特に無いシンプルな分布記録です。本来クワガタ屋のくせにクワガタ関連の報告が一本も無いダメなクワガタ屋である俺にとって初めての「クワガタ」と名の付く虫の報告になりました()


(短報) 沖縄島におけるウケンナミクチキムシの記録
藤川浩明・松村雅史
月刊むし2019年9月号(583号)
 奄美大島、徳之島、加計呂麻島、請島など奄美群島の各地から記録されているウケンナミクチキムシ Upinella uekenensis (Akita & Masumoto, 2012) の沖縄島初記録になります。一応ゴミダマ大図鑑☆5ですが、まあ調査不足補正でしょうね(笑。生態面の知見などは特に無いシンプルな内容です。

 

(報文) ヤンバルキモンヒメクチキムシ2例目の記録および♂️の初記録
藤川浩明・森井隆文
月刊むし2020年1月号(587号)

 邪悪なチャラ男・ふみ採集のホロタイプ1♀のみ発見されていた沖縄島産ヒメクチキ最珍・最美種ヤンバルキモンヒメクチキムシ Mycetochara (Ernocharis) nakanoi Akita & Masumoto, 2017 を初♂️含め多数追加記録し、生息環境と発生期についての断片的な知見と推測を述べました。本種はゴミダマ図鑑後の記載となるため、当然図鑑には載っておりません。
 初♂️について本稿では背面写真と体型についての簡素な説明に留め、♂️の形態記載やゲニの図示はしておりません。いずれ本種の記載者さんがやってくれるかな???
 情けない話ですが、本稿については俺のポンコツっぷりにより不完全な点が目立ちます....。

 まず本稿最大の欠点ですが、大事な初♂を他の虫と一緒に〆てしまうという俺のミスにより現状世界唯一となる♂️標本の触角を破壊してしまったため、♂標本写真が残念なことになっており、♀触角との比較もできませんでした....。ヒメクチキ関連短報を既に2本書いている身ゆえヒメクチキのモロさについてはよ〜〜〜〜く知ってるはずなのに何やってんだ俺は............。

 また発生期、生息環境、同属他種との棲みわけについても断片的な知見と推測を述べていますが、調査不足のため現時点では確実性に欠けています。あくまで雑甲屋の皆様の奮起を促し今後の更なる調査を促進する叩き台となるための速報的なものとして受け取ってほしいです。

 現地住みのクセに二例目を岐阜の森井君に先越され、その発生木をハイエナして得た初♂️は触角を破壊し、転職直後で心身共に余裕なかったとはいえポイント近所なのにあまり調査に出られず、ひたすら己の無能さを痛感させられました...。
 ネガっててもしゃーないんで、この汚名は今後の更なる調査で完全版報告出して返上してやります!!